2021年8月14日のマグニチュード(M)7.2のハイチ地震について (東北大学災害科学国際研究所 遠田晋次)

現地時間8月14日午前8時29分(日本時間午後9時29分),M7.2の強い地震が首都ポルトープランスの西約125 kmの地点で発生し,8月17日現時点で死者1419名超,負傷者約6900名超の甚大な被害が発生している(BBC).ハイチでは,約11年前の2010年1月12日にもM7.0の地震が発生し,震源が首都近傍で構造物の多くが脆弱であったために,30万人を超える死者を出したと推定されている(被害や社会情勢の詳細はWikipediaなどを参照してください).

今回の地震も2010年地震も震源の深さは約10 kmで,活断層によるいわゆる内陸直下型地震(浅部地殻内地震)であった.両地震ともハイチ南部を東西に横切る Enriquillo-Plantain Garden断層帯(図1,以下,エンリキロ断層帯)が関わっているとみられている.

図1 ハイチ周辺のプレート境界と活断層,2010年M7.0地震,2021年M7.2地震の震央

この断層帯は活断層帯であると同時に,北アメリカプレートとカリビアンプレートのプレート境界の左横ずれ運動(年間2cmの動き)の一部を担っている.最近のGNSS測地データからエンリキロ断層沿いは年間6±2 mmでゆっくりと歪んでおり,過去約500万年間の地質構造の復元から約9mm/年の左横ずれ運動が推定されている(Saint Fleur et al., 2020).2010年前には,1751年9月15日(推定M7.4-7.5),1751年11月21日(推定M6.6),1770年6月3日(推定M7.5)が発生していたが(Bakun et al., 2012),以来240年間大きな地震は記録されていない.このことは,240年間で1.4〜2.2m(6-9 mm x 240年)のズレを蓄積していて,2010年地震でその一部を解消したと考えることもできる.

2010年ハイチ地震では,当初エンリキロ断層帯のうち,ポルトープランス西の約40kmにわたる区間が動いたとみられた.しかし,余震が断層帯よりも北側に多いことや(図1),断層北側が隆起,断層南側の山地が低下したことから,EPG断層帯本体ではなく,並走する北傾斜の断層が斜めすべり(左横ずれと逆断層成分)を起こしたことがわかった(図2,詳細な断層モデルはHashimoto et al., 2011など).

図2 エンリキロ断層と2010年ハイチ地震の震源断層との関係を示す断面図(Calais et al., 2010に加筆).図1の青字のA,B地点の模式断面.

実際,米国地質調査所(USGS)の研究者が地震後にエンリキロ断層を調査したが,地表に断層が動いた痕跡(地表地震断層)は発見されなかった(Prentice et al., 2010).同様の事例として,米国カリフォルニア州のサンアンドレアス断層上で1989年に発生したロマプリエータ(Loma Prieta)地震(M7.0)がある.同地震ではサンアンドレアス断層ではなく並走する逆断層が震源となった.活断層があっても,その本体ではなく近傍の隠れた断層が大地震を起こすという厄介な問題を提起している.

2010年ハイチ地震がエンリキロ断層帯によるものかどうかはともかく,同断層帯沿いの一部の歪みが解消されたことは確かだ.一方で,解消された歪みは周辺に伝播する.時間差を置いてドミノ倒し的に大地震が連鎖することが懸念された.長大な断層帯やプレート境界では,大地震が連鎖的に発生することは良く知られている.例えば,トルコの北アナトリア断層帯での1939年以降の大地震の続発は有名で(Stein et al., 1997),特に1999年8月のM7.6イズミット地震と同年11月のM7.2デュズジェ地震は,前者発生直後から続発地震を懸念する論文などが出されていた(Barka, 1999).日本人に身近な例としては1944年東南海地震,1946年南海地震も同様である.上記ハイチでの18世紀の3つの大地震もその可能性がある.

このような懸念から, 2010年地震直後からエンリキロ断層の残り部分への影響が検討されてきた.2021年地震も大地震の連鎖過程の1つとも考えられる.詳細は下記の解説記事をご覧ください.

Stein, Toda, Lin, and Sevilgen, Are the 2010 M 7.0 and 2021 M 7.2 Haiti events part of a progressive earthquake sequence?, https://temblor.net/earthquake-insights/are-the-2021-and-2010-haiti-earthquakes-part-of-a-progressive-sequence-13132/

2010年ハイチ地震(M7.0),2021年ハイチ地震(M7.2)は長大断層の破壊進展過程を示しているのか(上記の日本語版)

なお,日本列島内陸にも中央構造線活断層帯や糸魚川―静岡構造線活断層帯など,長大な活断層が存在する.中央構造線での1596年の大分,四国〜京都にかけての活動(最後はM8弱の伏見地震)でも,断層帯の一部の「ほころび」が大地震続発につながった可能性が指摘されている(例えば,Ikeda et al., 2019).また,断層が長大でなくても,M6規模の地震が隣接活断層を刺激して大地震に至った例もある(例えば,平成28年の熊本地震など).大地震の起こり方や時々刻々変わる地震ハザードについて,一連のハイチ地震を通して学ぶことは多い.

文献:

Bakun, W. H., et al. (2012) Significant earthquakes on the Enriquillo fault system, Hispaniola 1500-2010: Implications for seismic hazard, Bull. Seismol. Soc. Amer., 102, 18-230, doi: 10.1785/0120110077.

Barka, Y. (1999) the 17 August 1999 Izmit earthquake, Science, 285, 1858-1859. doi: 10.1126/science.285.5435.1858.

BBC News, Haiti earthquake: Tropical storm grace hampers rescue, https://www.bbc.com/news/world-latin-america-58222888

Calais, E. et al. (2010) Transpressional rupture of an unmapped fault during the 2010 Haiti earthquake. Nature Geosci.3, 794-799, doi:10.1038/ngeo992.

Hashimoto, M. et al. (2011) Fan-delta uplift and mountain subsidence during the Haiti 2010 earthquake, Nature Geosci., 4, 255–259, doi:10.1038/ngeo1115.

Ikeda, M., Toda, S., Onishi, K., Nishizaka, N. and Suzuki, S. (2019) The 1596 Keicho earthquake, a 5-day, 300-km-long sequential rupture event in the Median Tectonic Line fault zone, southwestern japan, J. Geophys. Res., 124, 8376-8403, doi:10.1029/2018JB017264.

Prentice, C. S., et al. (2010) Seismic hazard of the Enriquillo Plantain Garden fault in Haiti inferred from palaeoseismology, Nature Geosci., 3, 789-793, doi:10.1038/ngeo991.

Saint Fleur, N. et al. (2020) Detailed map, displacement, paleoseismology, and segmentation of the Enriquillo-Plantain Garden Fault in Haiti, Tectonophysics, 778, 228368.

Stein, R. S. et al. (1997) Progressive failure on the North Anatolian fault since 1939 by earthquake stress triggering, Geophys. J. Int., 128, 594-604, doi: 10.1111/j.1365-246X.1997.tb05321.x.